R3i社説
R3i社説は、R3i理事会のメンバーによって作成され、心血管リスクの残存という永続的な課題への対処に焦点を当てている。これらの論説は、トリグリセリドリッチリポ蛋白やリポ蛋白(a)などの脂質関連危険因子に関する新たな知見や治療戦略について、医療専門家を教育する役割を果たしている。
November 2025
脂質研究の新しい動向とは?AHA 2025からの知見
Prof. Peter Libby, Prof. Michel Hermans, Prof. Pierre Amarenco, Prof. Lale Tokgözoglu
2025 年の American Heart Association(AHA)Scientific Sessions は期待を裏切らず,脂質領域における新たなエキサイティングなデータが数多く報告された。その主役の一つが,PCSK9 阻害薬 evolocumab を用いた VESALIUS-CV 試験 (1) であり,初回心血管イベントをまだ経験していない高リスク患者を対象としたランドマーク試験である。アテローム性心血管疾患(ASCVD)はリスクの連続体として捉えられており,ガイドラインではベースラインリスクに応じて必要な LDL コレステロール(LDL-C)低下の程度を決定することが推奨されている (2,3)。当然ながら,主要心血管イベント(MACE)をすでに発症した患者は最も高リスクであり,ガイドライン推奨 LDL-C 目標値を達成するには,通常,従来の脂質低下療法(スタチン+エゼチミブ)に PCSK9 阻害薬を追加する必要がある (2,3)。一方,高リスクとみなされる他の患者集団,例えば高リスクの cardiovascular–kidney–metabolic syndrome(心血管–腎–代謝症候群)を有する患者 (4) では,LDL-C 低下療法強化を支持するエビデンスは,相対的に乏しい。
VESALIUS-CV には,アテローム性動脈硬化または高リスク糖尿病を有するが,これまで心血管イベントを経験していない 12,000 例超の患者が組み入れられた。本試験は,LDL-C を中央値 45 mg/dL まで低下させること(これは,欧州ガイドラインが「超高リスク」患者に推奨する LDL-C <40 mg/dL の目標値に近い水準である)(3) により,冠動脈疾患死(CHD 死),心筋梗塞(MI),虚血性脳卒中から成る 3 点 MACE を 25%,虚血駆動の動脈血行再建術を加えた 4 点 MACE を 19%,さらに初回 MI を 36%低下させることを明確に示した (1)。CHD 死は 11% 減少したものの,イベント数が少なかったため統計学的有意差には至らず,その結果として他のエンドポイントに対する検定は行われなかった。しかし,心血管死亡 21%減少,全死亡 20%減少,虚血性脳卒中 21%減少という所見はいずれも臨床的にきわめて意味のある結果である (1)。これらを総合すると,VESALIUS-CV の結果は,「LDL-C をより低くすればするほど臨床アウトカムは良好になる」という概念を改めて強く支持している (5)。一方で,ガイドラインの実装は依然として大きな課題である。世界規模の実臨床データである VESALIUS-REAL では,VESALIUS-CV と同様の特徴を有する患者の 82% がガイドライン推奨の LDL-C 目標値に到達していなかったことが示された (6)。最善の診療を実現するためには,明らかにさらなる改善が必要である。また,補足的ではあるが,経口 PCSK9 阻害薬 enlicitide の登場にも注目すべきである。CORALreef Lipids 試験では,enlicitide が最大 60% に及ぶ持続的な LDL-C 低下を達成しており (7),LDL-C 目標達成に向けた実務的な利点をもたらす可能性がある。
LDL-C を超えた領域として,新規トリグリセリド低下療法に関するデータも報告された。重度高トリグリセリド血症を対象とした CORE 試験(CORE-TIMI 72a および CORE2-TIMI 72b,患者数 1,000 例超)では,アポリポ蛋白 CIII(APOC3)
を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド olezarsen(月 1 回 50 mg または 80 mg 投与)により,血漿トリグリセリド値が顕著かつ持続的に低下することが示された (8)。12 か月時点で,いずれの olezarsen 投与群においても 86% の患者がトリグリセリド 500 mg/dL 未満を達成し,さらに 1/3〜1/2 の患者が 150 mg/dL(1.69 mmol/L)未満まで低下した。加えて,olezarsen のプール解析では,プラセボと比較して急性膵炎発症率が 85% 減少し,1 年間に急性膵炎 1 例を予防するために必要な治療人数(NNT)は 20 と算出された (8)。重度高トリグリセリド血症で検討されたもう一つの薬剤が DR10624 である。これは,FGF21(Fibroblast Growth Factor 21),グルカゴン,グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体を同時に標的とする,初の三重作動薬である。患者数が少なく,ほぼ全例が漢民族の中国人であることに加え,治療期間も短いという制約はあるものの,12 週時点で約 70% 以上の血漿トリグリセリド低下が認められ,本薬による新規治療アプローチの有望性が示唆された (9)。これらの所見は,従来の治療(フィブラート,高用量オメガ 3 脂肪酸,スタチンなど)がトリグリセリド低下効果に乏しく,膵炎リスク低減効果も認められていないという背景 (10) を踏まえると,重度高トリグリセリド血症患者のマネジメントに新たな希望をもたらす。
を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド olezarsen(月 1 回 50 mg または 80 mg 投与)により,血漿トリグリセリド値が顕著かつ持続的に低下することが示された (8)。12 か月時点で,いずれの olezarsen 投与群においても 86% の患者がトリグリセリド 500 mg/dL 未満を達成し,さらに 1/3〜1/2 の患者が 150 mg/dL(1.69 mmol/L)未満まで低下した。加えて,olezarsen のプール解析では,プラセボと比較して急性膵炎発症率が 85% 減少し,1 年間に急性膵炎 1 例を予防するために必要な治療人数(NNT)は 20 と算出された (8)。重度高トリグリセリド血症で検討されたもう一つの薬剤が DR10624 である。これは,FGF21(Fibroblast Growth Factor 21),グルカゴン,グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体を同時に標的とする,初の三重作動薬である。患者数が少なく,ほぼ全例が漢民族の中国人であることに加え,治療期間も短いという制約はあるものの,12 週時点で約 70% 以上の血漿トリグリセリド低下が認められ,本薬による新規治療アプローチの有望性が示唆された (9)。これらの所見は,従来の治療(フィブラート,高用量オメガ 3 脂肪酸,スタチンなど)がトリグリセリド低下効果に乏しく,膵炎リスク低減効果も認められていないという背景 (10) を踏まえると,重度高トリグリセリド血症患者のマネジメントに新たな希望をもたらす。
CTX310 は,CRISPR-Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats–Cas9 endonuclease)技術を用いて開発された。コントロール不良の高コレステロール血症,高トリグリセリド血症,または混合型脂質異常症を有する成人 15 例を対象とした第 I 相試験では,安全性が主たる評価項目であった。CTX310(0.1,0.3,0.6,0.7,0.8 mg/kg)の単回静脈内投与は,有害事象が少なく,2 つの最高用量群では ANGPTL3 レベルが 70% 超低下した。さらに本治療により,最高用量では LDL-C とトリグリセリドがともに最大 60% 低下した (11)。当然ながら,長期的な安全性は大きな懸念事項であり,FDA の要件に従って最大 15 年間の安全性モニタリングが継続されている。とはいえ,これらの初期データは,“once and done” の単回治療が,難治性脂質異常症,高コレステロール血症,高トリグリセリド血症のマネジメントを根本的に変える可能性を秘めていることを示唆している。
今年も AHA Scientific Sessions 2025 は,過去の期待に違わぬ内容であった。脂質研究の物語は,今後も新たな章を重ねていくことになるだろう。
参考文献
- 1. Bohula EA, Marston NA, Bhatia AK, et al. Evolocumab in patients without a previous myocardial Infarction or stroke. N Engl J Med 2025; DOI: 10.1056/NEJMoa2514428.
- Mach F, Baigent C, Catapano AL, et al. 2019 ESC/EAS guidelines for the management of dyslipidaemias: lipid modification to reduce cardiovascular risk. Atherosclerosis 2019;290:140–205.
- Grundy SM, Stone NJ, Bailey AL, et al. 2018 AHA/ACC/AACVPR/AAPA/ABC/ACPM/ADA/AGS/APhA/ASPC/NLA/PCNA guideline on the management of blood cholesterol: executive summary: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines. Circulation 2019; 139(25): e1046-e1081.
- Ndumele CE, Rangaswami J, Chow SL, et al. Cardiovascular-kidney-metabolic health: a presidential advisory from the American Heart Association. Circulation 2023; 148: 1606-35.
- Ference BA, Ginsberg HN, Graham I, et al. Low-density lipoproteins cause atherosclerotic cardiovascular disease. 1. Evidence from genetic, epidemiologic, and clinical studies. A consensus statement from the European Atherosclerosis Society Consensus Panel. Eur Heart J 2017;38:2459-72.
- Chan Q, Sakhula S, Ochs A, et al. Lipid lowering therapy use in high risk RISK ASCVD patients without prior MI or stroke – preliminary data from the VESALIUS-REAL, US. JACC 2025;185(12): Supplement A.
- Navar AM, et al. Efficacy and safety of enlicitide, an oral PCSK9 inhibitor, for lowering LDL cholesterol in adults with or at-risk for ASCVD: the Phase 3 CORALreef Lipids Trial. American Heart Association Scientific Sessions 2025, Late-Breaking Science Abstract 4391578.
- Marston NA, Bergmark BA, Alexander VJ, et al. Olezarsen for managing severe hypertriglyceridemia and pancreatitis risk. N Engl J Med 2025; DOI: 10.1056/NEJMoa2512761
- Li J et al. American Heart Association Scientific Sessions 2025, Abstract 4392939.
- Filtz A, Parihar S, Greenberg GS, et al. New approaches to triglyceride reduction: is there any hope left? Am J Prev Cardiol 2024; 18: 100648.
- Laffin LJ, Nicholls SJ, Scott RS, et al. Phase 1 trial of CRISPR-Cas9 gene editing targeting ANGPTL3. N Engl J Med 2025; DOI: 10.1056/NEJMoa2511778.
- First in vivo base editing lowers cholesterol. Nat Biotechnol 2023;41:1665.
Key words: AHA Scientific Sessions 2025; triglycerides; low-density lipoprotein cholesterol; VESALIUS-CV; olarsarzen; CTX310; gene-editing
