R3i 編集記事
2021年5月
残存心血管リスク:どのように特定するか?
Prof. Jean Charles Fruchart, Prof. Michel Hermans, Prof. Pierre Amarenco
エディターズデスクより
エビデンスに基づく最善の治療を行っても、動脈硬化性心血管病患者はイベント再発のリスクが高い。炎症の抑制(CANTOS試験)、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)のさらなる低下(FOURIER試験、ODYSSEY OUTCOMES試験)などをターゲットにすることで臨床的なメリットが得られるが、いずれの戦略もこのリスクを回避できてはいない 1-3。このことから、この残存心血管リスクには、無数の他の要因が関与していると考えられる。これらの要因には、トリグリセリドを多く含むリポ蛋白やリポ蛋白(a)レベルの上昇によってもたらされるリスクなど、脂質関連の因子や4、血栓形成促進因子を含む非脂質関連因子などがある。直近の報告では、NOD-like receptor protein-3の発現を調節することで残存リスクに寄与する可能性のあるインフラマソームの活性化に関して,その役割が注目されている 5,6。
しかし、残存心血管リスクの概念は確立されているものの、イベント再発リスクが高い患者をどのようにして特定すべきかはまだ明らかではない。実際、LDL-C低下作用の高い治療法が日常臨床で導入された結果、残存リスクのバイオマーカーとしてのLDL-C役割はどの程度か、あるいは臨床ガイドラインで推奨されている他の脂質バイオマーカーの方がより適切かどうかについては不確実である。このような疑問は、現在利用可能な治療法の効果が限界に達したときに、リスクを予測し、個別化治療を進める上で極めて重要である。今月のフォーカスで紹介する研究は、この疑問を根拠に実施されている。
著者らは、前向き観察研究であるCopenhagen General Practice Studyのスタチン治療を受けた患者13,015例のデータを用いて、LDL-C、非高比重リポ蛋白コレステロール(non-HDL-C)、アポリポ蛋白(apo)Bが、脂質に関連した残存心血管リスクのバイオマーカーとしてどのように機能するかを評価した7。本研究では、一致・不一致(コンコーダンス、ディスコ―ダンス)解析を用いて、中央値からの変化の方向性(LDL-Cが中央値を下回り、non-HDL-CまたはapoBが中央値を上回る場合、またはその逆の場合)に応じて、これらの関連変数の価値がどう変化するかを検討した。その結果、本報告ではLDL-Cではなく、apoBまたはnon-HDL-Cの上昇のほうが、総死亡および心筋梗塞の残存リスクと関連していることが明らかになった。著者らは、LDL-C値がコントロールされているスタチン治療を受けている患者においては、non-HDL-CよりもapoBの方がより正確な残存リスクのマーカーとなる可能性を示唆しており、これは過去の報告8,9とも一部で一致している。
本研究の臨床現場への影響は?
臨床家にとって、本研究から2つの重要な”take home message”が得られる。まず、LDL-Cは、欧州の脂質異常症ガイドラインの最終版で強調されている「lower is better」のパラダイムに従って、治療介入の対象となる優先的なリポ蛋白であることに変わりはない10 。しかし、本研究の結果は、リスク評価においてLDL-C濃度のみを考慮することの限界も示している。LDL-C濃度が十分にコントロールされている高リスクの患者では、non-HDL-CまたはapoBのいずれかが、残存する心血管リスクをより的確に反映する可能性がある。これらのマーカーが何を表しているかを考えると、これは科学的にも理にかなっている。non-HDL-Cは、LDL-Cを含むアテローム性リポ蛋白質の総量を示すマーカーであり、一方、apoBは、アテローム性のapoB含有リポ蛋白質(これらのリポ蛋白質は、それぞれ1つのapoB分子を含む)の循環数を直接測定する。したがって、糖尿病、肥満、メタボリックシンドロームを伴う軽度から中等度の高トリグリセリド血症を有する高リスクのスタチン治療患者には、両方の検査を行うことが望ましいと考えられる。このアプローチにより、トリグリセリドを多く含むリポ蛋白の代謝産物であるレムナントリポ蛋白に含まれるコレステロールに起因する残存リスクを考慮した治療戦略が可能になる。
結論として、残存する心血管リスクに対処するためには、新たな治療標的だけでなく、そのリスクを特定するための新たな戦略も必要である。残存心血管リスクの原因となる可能性のあるトリグリセリドを多く含むリポ蛋白とリポ蛋白(a)を標的とした新しい治療法の出現により、この2つの要素はますます重要になってくるだろう。
参考文献
-
Ridker PM, Everett BM, Thuren T, et al. Antiinflammatory therapy with canakinumab for atherosclerotic disease. N Engl J Med 2017;377:1119–31.
2. Sabatine MS, Giugliano RP, Keech AC, et al. Evolocumab and clinical outcomes in patients with cardiovascular disease. N Engl J Med 2017;376:1713–22
3. Schwartz GG, Steg PG, Szarek M, et al. Alirocumab and cardiovascular outcomes after acute coronary syndrome. N Engl J Med 2018;379:2097–107.
4. Hoogeveen RC, Ballantyne CM. Residual cardiovascular risk at low LDL: remnants, lipoprotein(a), and inflammation. Clin Chem 2021;67:143-53.
5. Schunk SJ, Kleber ME, März W, et al. Genetically determined NLRP3 inflammasome activation associates with systemic inflammation and cardiovascular mortality. Eur Heart J 2021: doi: 10.1093/eurheartj/ehab107. Online ahead of print.
6. Papac-Milicevic N, J Binder CJ. Can a single genetic variant explain residual cardiovascular risk by modifying NLRP3 expression? Eur Heart J 2021; doi: 10.1093/eurheartj/ehab201. Online ahead of print.
7. Johannesen CDL, Mortensen MB, Langsted A, Nordestgaard BG. Apolipoprotein B and non-HDL cholesterol better reflect residual risk than LDL cholesterol in statin-treated patients. J Am Coll Cardiol 2021;77:1439-50.
8. Sniderman AD, Islam S, Yusuf S, McQueen MJ. Discordance analysis of Apolipoprotein B and non-high density lipoprotein cholesterol as markers of cardiovascular risk in the INTERHEART study. Atherosclerosis 2012;225:444-9.
9. Boekholdt SM, Arsenault BJ, Mora S, et al. Association of LDL cholesterol, non-HDL cholesterol, and apolipoprotein B levels with risk of cardiovascular events among patients treated with statins: a meta-analysis. JAMA 2012;307:1302-9.
10. Mach F, Baigent C, Catapano AL, et al. 2019 ESC/EAS guidelines for the management of dyslipidaemias: lipid modification to reduce cardiovascular risk. Eur Heart J 2020;41:111–88.
