R3i社説
2023年7月
残存脳卒中リスクに対する行動喚起
Prof. Jean Charles Fruchart, Prof. Michel Hermans, Prof. Pierre Amarenco
編集デスクから
脳卒中は障害(disability)の原因として世界第一位であり、死因としては第二位である。世界の疾病負担研究(Global Burden of Disease Study)の最新データによれば、過去30年間(1990~2019年)で脳卒中の絶対発生数は70%増加しており、70歳以上ではさらに増加率が高い(1)。さらに、脳卒中の疫学調査では性差が確認されている。男性は生涯の大半において女性より脳卒中リスクが高いが、女性は脳卒中発生率が加齢とともに増加し、特に85歳を過ぎると高くなる。女性のほうが寿命が長いため、脳卒中の治療管理が進歩したとはいうものの、脳卒中の罹患および脳卒中による死亡に占める女性の割合は比較的大きい2 。このように、高齢期の延長に伴い、脳卒中とそれに伴う障害(disability)の世界的な負担が大きくなることから、改めて予防管理に注目することは有意義である。
一過性脳虚血発作(TIA)や軽度の脳卒中の管理も、この行動喚起の対象である。発症後間もない(7日以内)TIAまたは軽度の虚血性脳卒中患者を対象とした国際共同前向き観察レジストリであるTIAレジストリから得られた最新データは、残存脳卒中リスク管理の課題を浮き彫りにした。TIAまたは軽度の脳卒中を発症した患者には、その後5年間にかなり大きな障害(disability)の負担が生じるが、そのほとんどは修正可能なリスク因子により予測可能であった。特に、糖尿病を併発している患者では、後遺障害を伴う脳卒中または致死的脳卒中の再発リスクが2倍以上であった 3 。さらに、アテローム性動脈硬化の既往を有する患者は、既往のない患者と比較して、5年以内に大血管イベントを発症するリスクが2~3倍とかなり高かった 4 。
残存脳卒中リスク低減の取り組みにおいて、臨床試験が少ないことがある程度の障壁となっている。これについては、Pierre Amarenco教授が今年2月にモロッコのマラケシュで開催されたResidual Risk Reduction Initiative(残存リスク低減イニシアチブ)の国際運営委員会の会合で取り上げている[動画リンク]。とはいえ、これまでに実施されたランドマーク試験からも重要な教訓が得られている。そのひとつであるTreat Stroke to Target(TST)試験は、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)の実質的な低下(目標値およびLDL-C低下量の両方の低下)の重要性を明らかにした 5 -7 。糖尿病患者に多くみられるトリグリセリド値の上昇と血漿高比重リポ蛋白コレステロール値の低下の2つを標的としたアテローム性脂質異常症の治療により、追加ベネフィットが得られる可能性があるが、TST試験では、主要評価項目において脳卒中、アテローム性動脈硬化症、アテローム性脂質異常症患者のリスクが36%低下した 5 。
さらに、炎症、酸化ストレス、糖代謝異常などの修正可能なリスク因子に対する介入についても評価が必要である。選択的ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体αモジュレーター(SPPARMα)であるペマフィブラートは、その活性プロファイルを考慮すれば、上記の検証に適切な薬剤であると考えられる。ペマフィブラートは脳卒中後の認知障害を軽減する疾患修飾治療薬としても有用と考えられる。
冠動脈疾患患者の残存リスク管理は大きく進歩したが、脳卒中再発リスクおよびそれに伴う認知障害を軽減するためには、まだ多くの課題が残っている。残存炎症リスクおよび血栓リスクを標的としたRIISC-THETIS(Evaluation of Low Dose Colchicine and Ticagrelor in Prevention of Ischemic Stroke in Patients With Stroke Due to Atherosclerosis) 8 などの新しい試験の結果から、残存脳卒中リスクの低減と脳の健康増進に役立つ新たな知見が得られることに期待したい。
参考文献
- GBD 2019 Stroke Collaborators. Global, regional, and national burden of stroke and its risk factors, 1990-2019: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2019. Lancet Neurol 2021;20:795-820.
2. Eriksson M, Åsberg S, Stibrant Sunnerhagen K, von Euler M. Sex Differences in Stroke Care and Outcome 2005-2018: Observations From the Swedish Stroke Register. Stroke 2021;52:3233-3242.
3. Hobeanu C, Lavallée PC, Charles H et al. Risk of subsequent disabling or fatal stroke in patients with transient ischaemic attack or minor ischaemic stroke: an international, prospective cohort study. Lancet Neurol 2022;21:889-898.
4. Lavallée PC, Charles H, Albers GW et al. Effect of atherosclerosis on 5-year risk of major vascular events in patients with transient ischaemic attack or minor ischaemic stroke: an international prospective cohort study. Lancet Neurol 2023;22:320-329.
5. Amarenco P, Kim JS, Labreuche J, et al. A comparison of two LDL cholesterol targets after ischemic stroke. N Engl J Med 2020;382(1):9
6. Amarenco P, Kim JS, Labreuche J, et al. Impact of lower versus higher LDL cholesterol targets on cardiovascular events after ischemic stroke in patients with diabetes. Diabetes 2021;70:1807-1815.
7. Amarenco P, Kim JS, Labreuche J, et al. Yield of dual therapy with statin and ezetimibe in the Treat Stroke to Target Trial. Stroke 2022; 53:3260-3267.
8. Evaluation of Low Dose Colchicine and Ticagrelor in Prevention of Ischemic Stroke in Patients With Stroke Due to Atherosclerosis (RIISC-THETIS). Available at https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT05476991
