R3i社説
2021年8月
静脈グラフト不全を理解するために:PPARαの病理学的役割
Prof. Jean Charles Fruchart, Prof. Michel Hermans, Prof. Pierre Amarenco
エディターズデスクより
末梢動脈疾患(PAD)は一般的な疾患であるが、診断や治療が不十分な場合が多い。最近の推定では、PADは全世界で2億3,000万人以上が罹患していると言われていて1、人口の高齢化や、糖尿病・脂質異常症などの心血管危険因子が一般的になるにつれて、その有病率は増加している1,2。実際、2000年から2015年の間にPADの有病率は約45%増加しており、中低所得国の方が、高所得国ン比べて極端に高くなっている1。その疾患負担は深刻で、特に切断を必要とする重度のPAD患者では、長年にわたり障害を伴って生きる主な要因である3,4。
薬物療法によるアプローチはある程度改善されてきたが5,6、重度の閉塞性疾患の患者には、自家静脈グラフトや人工血管によるバイパスを用いた外科的治療が必要となる。しかし、いずれも短期的な障害や長期的な開存率の低さという制約があり、それが生存率や無イベント生存率にも影響を及ぼす7。そのため、静脈グラフト不全の原因となるメカニズムをより深く理解する、というアンメットニーズが厳然として存在する。
この問題に関して、静脈グラフト不全におけるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)経路への役割を示す新たなエビデンスが報告された。Decanoと共同研究者8は、静脈グラフトマウスの実験モデルを用いて、システムアプローチにより潜在的な発症メカニズムを検討した。PPARαアゴニストは、静脈グラフトの病変発生に際して、抗動脈硬化作用と抗炎症作用を発揮することが示された。また、PPARαがマクロファージの代謝を調節し、その結果、炎症特性が緩和されることがin vitro試験で示された。実験的なマウスモデルでみられた代謝経路と炎症経路の亢進は、マクロファージが静脈グラフト障害において重要な役割を果たし、その作用がPPARαによって調節されている可能性を示唆した。
静脈グラフトの病変発生におけるPPARαの抑制作用をさらに明確にするため、研究者らは実験モデルマウスを用いて、新規の選択的PPARαモジュレーター(SPPARMα)であるペマフィブラートの低用量投与の効果を検証した。その結果、ペマフィブラート処理は静脈グラフトの病変発生を抑制した。すなわち、新生内膜のマクロファージは、ペマフィブラート投与マウスで、コントロールグラフトに比べて少なかったが、平滑筋での含有量には差がなかった。 この効果は、トリグリセリド低下作用とは無関係と考えられた8。動静脈瘻(AVF)の別の実験モデルでは、ペマフィブラート処理によりAVFの開存性が改善され、病変の進行が抑制された8。
本研究で得られた知見は新規性が高いだけでなく、システムアプローチを用いることで、静脈グラフト不全の発症に関わる根本的なメカニズムの理解を助けるものである。本研究で得られた知見は、PPARαなどの新たな標的を特定し、SPPARMαなどの新たな薬物療法アプローチを開発・検証する上で極めて重要である。これらのインサイトは、静脈グラフト不全の予防、ひいてはPADの負担軽減のために極めて重要である。
参考文献
- Song P Rudan D Zhu Y, et al. Global, regional, and national prevalence and risk factors for peripheral artery disease in 2015: an updated systematic review and analysis.
Lancet Glob Health 2019;7:e1020-e1030.
2. Fowkes FG, Rudan D, Rudan I, et al. Comparison of global estimates of prevalence and risk factors for peripheral artery disease in 2000 and 2010: a systematic review and analysis. Lancet 2013;382:1329–40.
3. Kohn CG, Alberts MJ, Peacock WF, et al. Cost and inpatient burden of peripheral artery disease: Findings from the National Inpatient Sample. Atherosclerosis 2019;286:142-6.
4. GBD 2017. Global, regional, and national incidence, prevalence, and years lived with disability for 354 diseases and injuries for 195 countries and territories, 1990–2017: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2017. Lancet 2018;392:1789-858.
5. Bonaca MP, Nault P, Giugliano RP, et al. Low-density lipoprotein cholesterol lowering with evolocumab and outcomes in patients with peripheral artery disease: Insights from the FOURIER Trial (Further Cardiovascular Outcomes Research With PCSK9 Inhibition in Subjects With Elevated Risk). Circulation 2018;137:338-50.
6. Anand SS, Caron F, Eikelboom JW, et al. Major adverse limb events and mortality in patients with peripheral artery disease: The COMPASS Trial. J Am Coll Cardiol 2018;71:2306-15.
7. Owens CD, Gasper WJ, Rahman AS, Conte MS. Vein graft failure. J Vasc Surg 2015;61:203–16.
8. Decano JL, Singh SA, Gasparotto Bueno C, et al. Systems approach to discovery of therapeutic targets for vein graft disease PPARα pivotally regulates metabolism, activation, and heterogeneity of macrophages and lesion development. Circ Res 2021;DOI:10.1161/CIRCULATIONAHA.119.043724
