R3i社説

2021年9月
残存血管リスク:何が重要か?
Prof. Jean Charles Fruchart, Prof. Michel Hermans, Prof. Pierre Amarenco

The Residual Risk Reduction Initiative(R3i)は、残存血管リスクの重要性に注目し、この分野をリードしてきた1,2。このリスクには大血管と微小血管の両方の残存リスクが含まれており、後者は、網膜症、腎症、下肢合併症による切断などの大きな負荷をもたらす糖尿病性微小血管合併症の管理に深く関与している。最近、「残存血管リスク」が臨床領域の辞書に定着してきたことから3、今、改めて一歩下がって、このリスクの原因について何が分かっていて、今後何を知る必要があるかを見直す良い時期がきている。

これまでは、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)以外の心血管リスクの要因を特定することに特に重点が置かれてきた。 血漿トリグリセリド(TG)の上昇、高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)の血漿中濃度の低下、小さくて高密度のLDL粒子の優勢などによって特徴つけられた動脈硬化性脂質異常症は、高リスク者の10〜15%に認められ、特に2型糖尿病の合併患者で認められる4〜6。血漿HDL-Cの低値が心血管リスクのマーカーであり、SCOREリスク評価にも含まれていることから7、初期にはHDL-Cに注目が集まっていたが、HDLを標的とした新規治療法のアウトカム・スタディの失敗と、遺伝子研究でも関連性の欠如が証明されたことから2、TGが注目されるようになった。しかしTGは、本来の原因と思われるTG-richリポ蛋白とそのレムナントのサロゲートであり、しばしばレムナントコレステロールを用いて測定されることに留意が必要である8

TG関連の代謝はLDL代謝より複雑であるため、TG(またはTG-richリポ蛋白とそのレムナント)の因果関係を確立することは困難である。また、ACCORD Lipid 6に代表されるような、心血管アウトカム研究の実施において、特にLDL-C値が良好にコントロールされているにもかかわらず、TG値が明確に上昇している患者をリクルートすることが難しいとされてきた。これらの障害にもかかわらず、TG-richリポ蛋白が動脈硬化性心血管疾患の発症経路において一定の役割を果たしているというエビデンスが蓄積されてきた9。また、TG値の調節に関与する様々なタンパク質の発現に影響を及ぼす遺伝子変異を評価する遺伝学的研究は、重要な裏付けとなっており(10)、高TG血症を管理するための新規治法の開発にも貢献している。

一方で、TG値の上昇が臨床的に重要となるレベルを特定するという重要な課題が特に残されている。この点に関しては、PESA(Progression of Early Subclinical Atherosclerosis)試験から得られた最近の知見が参考になる。PESA試験は、今月のフォーカスで述べたように、TG値150mg/dL(1.7mmol/L)から、無症候性アテローム性動脈硬化症が増加するという知見を示している11。しかし、LDL-C値が適切にコントロールされた状況で、上昇したTG値を低下させることが心血管イベントを減少させるという心血管アウトカム研究のエビデンスが不十分であるため、ガイドラインではTG値の目標値を定めていない7。PROMINENT(Pemafibrate to Reduce Cardiovascular Outcomes by Reducing Triglycerides in Patients with Diabetes)は、この不確実性を解決する上で重要な役割を果たすだろう12

TG以外にも、残存心血管リスクの要因はある。高リスク患者の25%に影響を及ぼす残存炎症性リスクをターゲットとする意義については、コンセプト検証試験であるCANTOS(Canakinumab Antiinflammatory Thrombosis Outcome Study)で検証されている13,14。また、COMPASS試験(Cardiovascular Outcomes for People using Anticoagulation Strategies)では、低用量のリバーロキサバンとアスピリンの併用により、安定した動脈硬化性心血管患者の心血管イベントと下肢の主要有害事象の有意な減少が示されたことから、血栓リスクの残存も考慮する必要がある15。他のリポ蛋白や脂質も関与している可能性があり、その因子の1つと考えられているリポ蛋白(a)については、現在HORIZON試験で検証が進められている。

最後に、現在、肥満と2型糖尿病が深刻化していることから、残存微小血管リスクの要因のさらなる迅速な解明が求められている。血漿TGは、糖尿病性腎疾患や網膜症に関与している可能性がある16。そのためには、基礎となる分子メカニズムの理解が不可欠である。例えば、糖尿病性血管合併症に関連する主要な炎症遺伝子や線維化遺伝子の発現の調節において、長鎖非コードRNAの調節異常が何らかの役割を果たしていることが示唆されており、今後の治療法の革新につながる可能性がある17

私たちは、エビデンスに基づく最善の治療にもかかわらず、高い残存血管リスクを低減するという継続的な課題に直面している。心血管疾患と糖尿病性微小血管合併症の負担は、特に低・中所得国を中心に世界的に増加し続けている。R3iは、残存血管リスクを低減するための教育と提言を行うというミッションを今後も継続していく。
私たちは、エビデンスに基づいた最善の治療にもかかわらず持続する高い残存血管リスクを軽減するための継続的な課題に直面している。心血管疾患と微小血管の糖尿病合併症の負担は、特に低・中所得国において、世界的にエスカレートし続けている。R3iは、残存血管リスクを軽減するための教育と提唱の使命を継続する。

参考文献

  1. Fruchart JC, Sacks F, Hermans MP, et al. The Residual Risk Reduction Initiative: a call to action to reduce residual vascular risk in patients with dyslipidemia. Am J Cardiol 2008;102(10 Suppl):1K-34K.
    2. Fruchart JC, Davignon J, Hermans MP, et al. Residual macrovascular risk in 2013: what have we learned? Cardiovasc Diabetol 2014;13:26.
    3. Patel KV, Pandey A, de Lemos JA. Conceptual framework for addressing residual atherosclerotic cardiovascular disease risk in the era of precision medicine. Circulation 2018;137:2551–3.
    4. Halcox JP, Banegas JR, Roy C, et al. Prevalence and treatment of atherogenic dyslipidemia in the primary prevention of cardiovascular disease in Europe: EURIKA, a cross-sectional observational study. BMC Cardiovasc Disord. 2017;17:160
    5. Reiner Ž, De Bacquer D, Kotseva K, et al. Treatment potential for dyslipidaemia management in patients with coronary heart disease across Europe: findings from the EUROASPIRE III survey. Atherosclerosis. 2013;231:300–7
    6. ACCORD Study Group, Ginsberg HN, Elam MB, Lovato LC, et al. Effects of combination lipid therapy in type 2 diabetes mellitus. N Eng J Med. 2010;362:1563–74.
    7. Mach F, Baigent C, Catapano AL, et al. 2019 ESC/EAS Guidelines for the management of dyslipidaemias: lipid modification to reduce cardiovascular risk. Eur Heart J 2020;41:111-88.
    8. Nordestgaard BG, Langlois MR, Langsted A, et al. Quantifying atherogenic lipoproteins for lipid-lowering strategies: Consensus-based recommendations from EAS and EFLM. Atherosclerosis 2020;294:46-61.
    9. Sandesara PB, Virani SS, Fazio S, Shapiro MD. The forgotten lipids: triglycerides, remnant cholesterol, and atherosclerotic cardiovascular disease risk. Endocr Rev 2019;40:537-57.
    10. Nordestgaard BG. Triglyceride-rich lipoproteins and atherosclerotic cardiovascular disease: new insights from epidemiology, genetics, and biology. Circ Res 2016;118:547–63.
    11. Raposeiras-Roubin S, Rosselló X, Oliva B et al. Triglycerides and residual atherosclerotic risk. J Am Coll Cardiol 2021;22: 3031 – 41.
    12. Pradhan AD, Paynter NP, Everett BM, et al. Rationale and design of the Pemafibrate to Reduce Cardiovascular Outcomes by Reducing Triglycerides in Patients with Diabetes (PROMINENT) study. Am Heart J 2018;206:80-93.
    13. Klingenberg R, Aghlmandi S, Gencer B, et al. Residual inflammatory risk at 12 months after acute coronary syndromes is frequent and associated with combined adverse events. Atherosclerosis 2021;320:31-7.
    14. Ridker PM, Everett BM, Thuren T, et al. Antiinflammatory therapy with canakinumab for atherosclerotic disease. N Engl J Med 2017;377:1119-31.
    15. Anand SS, Bosch J, Eikelboom JW, et al. Rivaroxaban with or without aspirin in patients with stable peripheral or carotid artery disease: an international, randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2018;391:219–29.
    16. Sacks FM, Hermans MP, Fioretto P, et al. Association between plasma triglycerides and high-density lipoprotein cholesterol and microvascular kidney disease and retinopathy in type 2 diabetes mellitus: a global case-control study in 13 countries. Circulation 2014;129:999-1008.
    17. Tanwar VS, Reddy MA, Natarajan R. Emerging role of long non-coding RNAs in diabetic vascular complications. Front Endocrinol (Lausanne). 2021;12:665811.