R3i社説

2024年8月
新たに登場したトリグリセリド低下薬
Prof. Jean-Charles Fruchart, Prof. Michel P. Hermans, Prof. Pierre Amarenco

トリグリセリド(TG)はアテローム形成を促進するTG-richリポ蛋白のサロゲートマーカーであり、近年再び関心を集めているが、これは、TGが心血管リスクの残存に寄与すると考えられるようになったためである。このような見方の根拠になっているのは、TG-richリポ蛋白高値が動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の強力な独立予測因子であることを示す疫学的、メカニズム的、および遺伝学的研究の蓄積されたエビデンスである(1)。この強固なエビデンス基盤のもと、TG-richリポ蛋白がASCVDの原因であることの立証を目的とする臨床アウトカム試験が進められた。しかし、そうした臨床アウトカム試験の経過は順調とは言えず、これまでにTG低下の臨床的有用性が確認されたのは、高用量イコサペント酸エチルの投与によりTG値を低下させたREDUCE-IT試験(2)のみである。

 

TGの低下とASCVDとの関連に関する疑問が明らかにならないまま、開発の中心はTG-richリポ蛋白代謝の様々なポイントで作用する新薬の同定に移っていった。核酸医薬の技術的進歩もあり、特異性および有効性に優れた低分子干渉RNA(siRNA)薬の注目度が高まった。siRNA薬は細胞に取り込まれにくく、ヌクレアーゼによる分解を受けやすいという性質があるため、標的細胞に効率よく送り込むには担体が必要であった(3)。最初に承認されたsiRNA薬インクリシランは、家族性高コレステロール血症ホモ接合体および高低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)血症の治療薬として臨床使用されている。現在、この魅力的な技術を用いて新しいTG低下薬の探索が行われている(4)。

 

plozasiran(以前はARO-APOC3と呼ばれていた)は、肝細胞のアポリポ蛋白C-III(APOC3)を標的とするファースト・イン・クラスのAPOC3 siRNA薬である。APOC3はリポ蛋白質リパーゼ(LPL)のコファクターであり、超低比重リポ蛋白質およびカイロミクロンの加水分解において中心的役割を果たす重要な脂質代謝制御因子である。APOC3はLPLを阻害し、LPL非依存性経路によるTG-richリポ蛋白の肝取り込みに干渉する(5)。plozasiranはAPOC3の発現を抑制することによってTG値を低下させる。

初期の臨床試験では、高トリグリセリド血症およびカイロミクロン血症の患者においてplozasiranの概念を実証するエビデンスが得られた(6)。最近の試験では、重症高トリグリセリド血症患者を対象とした検討(7)、今月のFocus論文で取り上げた混合型高脂血症患者を対象とした検討(8)、また直近ではPALISADE試験により非常にまれであるが重症で、新たな治療法に対する臨床ニーズが満たされていない疾患である家族性カイロミクロン血症症候群(FCS)の患者を対象とした検討が行われている。PALISADE試験では特に目覚ましい成果として、plozasiranの有意なTG低下効果が認められ(10ヵ月の時点でplozasiran 25 mg群では80%低下、plozasiran 50 mg群では78%低下)、この効果は12ヵ月後まで持続した(9)。これらの試験結果に基づき、plozasiranは米国食品医薬品局からオーファンドラッグ指定およびファストトラック指定を受け、欧州医薬品庁からもオーファンドラッグ指定を受けた(10)。

現在開発されているTG低下効果のあるsiRNA薬はplozasiranだけではない。もうひとつのアプローチは、肝臓により産生される糖蛋白質、アンジオポエチン様蛋白質3(ANGPTL3)を標的とするものである。ANGPTL3はLPLおよび血管内皮リパーゼの阻害や、TG-richリポ蛋白レムナントの肝取り込みにおいて、主要な役割を果たしている(11)。肝臓でのANGPTL3発現を標的としたsiRNA薬であるzodasiranの第2相試験では混合型高脂血症患者に対する有効性が認められており(12)、さらなる試験が進行中である。

TG低下薬については、これらの新規治療薬の開発が進んでおり、その未来は明るい。これらの新規治療薬を用いた心血管アウトカム試験において、残存する心血管リスクの減少に対してTG-richリポ蛋白の低下が臨床的に有益か否か、という重要な疑問について検討すべきである。

参考文献

  1. Song P, Rudan D, Zhu Y, et al. 2015年における末梢動脈疾患の世界、地域、国の有病率と危険因子:最新の系統的レビューと分析。Lancet Global Health 2019;7:e1020-30.
  2. GBD 2019末梢動脈疾患共同研究者。末梢動脈疾患とその危険因子の世界的負担、1990-2019年:世界疾病負担調査2019のための系統的分析。Lancet Global Health 2023;11: E1553-E1565.
  3. Gornik HL, Aronow HD, Goodney PP, et al. 2024 ACC/AHA/AACVPR/APMA/ABC/SCAI/SVM/SVN/SVS/SIR/VESS Guideline for the Management of Lower Extremity Peripheral Artery Disease.J Am Coll Cardiol 2024;doi.org/10.1016/j.jacc.2024.02.013.
  4. Shah AD, Langenberg C, Rapsomaniki E, et al. 2型糖尿病と心血管疾患の発症:190万人を対象としたコホート研究。 Lancet Diabetes Endocrinol 2015;3:105-13.
  5. Nativel M, Potier L, Alexandre L, et al. 糖尿病患者における下肢動脈疾患:現代のナラティブレビュー。Cardiovasc Diabetol 2018;17(1):138.
  6. ペマフィブラートによるトリグリセリド低下による心血管リスク低下。N Engl J Med 2022;387:1923-34.
  7. Marino L、Everett BM、Aday AY、他:ペマフィブラートは下肢虚血性潰瘍および壊疽の発生率を減少させる:PROMINENTからのエビデンス。 要旨23102.Circulation 2023;148:e282–e317.
  8. Rajamani K, Colman PG, Li LP, et al. 2型糖尿病患者における切断イベントに対するフェノフィブラートの効果(FIELD試験):無作為化比較試験の事前規定分析。Lancet 2009;373:1780-8.
  9. Yuan J, Tan JTM, Rajamani K et al. Fenofibrate rescise diabetes-related impairment of ischemia-mediated angiogenesis by PPARalpha-independent modulation of thioredoxin-interacting protein.Diabetes 2019;68:1040-53.
  10. Deng Y, Han X, Yao Z, et al. PPARαアゴニストは、NLRP3インフラマソーム経路を介して内皮前駆細胞機能を改善することにより血管新生を刺激した。Cell Physiol Biochem 2017;42:2255-66.
  11. Sharma P, Klarin D, Voight BF, et al.末梢動脈疾患との因果関係に関する血漿バイオマーカーの評価。Arterioscler Thromb Vasc Biol 2024;44:1114-23.