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非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)にはなぜ多剤アプローチが必要か:ペマフィブラートに関する知見
Prof. Jean Charles Fruchart, Prof. Michel Hermans, Prof. Pierre Amarenco
エディターズデスクより
非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)の治療は21世紀の大きな課題である。既に世界人口の25%以上がNAFLDに罹患しており 1 、この値は先進国とそれ以外の国々で変わらない 2 。肥満、脂質異常症、糖尿病の有病率が高くなるにつれて、NAFLDの有病率も上昇傾向にある。インスリン抵抗性と肥満の増加に一致するように、NAFLDの最も重症型である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)への進行も増えている。実際に糖尿病とNAFLDを有する患者のなかで臨床的負担が最も大きいのはNASHに進行した患者である 3 。米国では、NASHによる肝硬変は女性患者における肝移植の原因の第1位であり、男性患者における肝移植の原因の第2位であるとともに、肝細胞癌の発症率上昇の主要なリスク因子である 4 。しかし、これまでNASHに対して承認された治療薬はない。
NASHの新規治療の開発において、その病因の解明は必須である。NASHの進行には、脂肪毒性のほか骨髄細胞と肝類洞内皮細胞の相互作用が極めて重要な役割を果たす 5 。基礎となる発症メカニズムは完全に解明されてはいないものの、トリグリセリド(TG)蓄積も重要な役割を果たすと考えられる。ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)はリポ蛋白代謝の転写調節、脂肪酸輸送、β酸化に不可欠であり、PPARαの機能不全はNASH発症の一因であることから、この受容体は治療標的となる可能性がある。選択的ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体αモジュレーター(SPPARMα)であるペマフィブラートは、従来のPPARα作動薬よりも強力で、PPARαサブタイプ特異性を持ち、特にインスリン抵抗性状態の患者における高トリグリセリド血症の管理に有効であることが示されている。同薬はTGを最大50%低下させ 6 、好ましい安全性プロファイルを有する 7 。さらに、近年の研究では、実験的に誘発したNASHにおける潜在的ベネフィットも示されている 8 。これらの知見を総合すると、NASHの前臨床モデルを用いてペマフィブラートの効果を検証する理論的根拠が得られており、こうした研究はアンメットメディカルニーズを考えると非常に重要な意味を持つ。
Sasakiらは、STAMマウスモデルを用いた検討を報告している 9 。このマウスは、ヒトの糖尿病によるNASHを再現したもので、膵臓のβ細胞からのインスリン分泌能がほぼ完全に失われ、重症の高血糖を呈する。試験の概略は、β細胞に対する毒性を示すストレプトゾシン200 μgをC57BL/6Jマウスに生後2日間投与し、4週間目から高脂肪食を摂取させた。6週齢時点でマウスをペマフィブラート0.1 mg/kgまたは溶媒対照投与群に割り付け、3週間投与した結果を、通常食摂取の正常マウスと比較するというものである。脂質の測定、肝臓の組織学的検討、NAFLD活動性スコア、および遺伝子トランスクリプトーム解析を実施した。
ペマフィブラートが肝臓のTG蓄積の減少を介してNASHを改善するという仮説を立てていた。試験の結果、ペマフィブラート投与は、肝臓の組織学的所見とNAFLD活動性スコア、ならびに炎症・線維化マーカー遺伝子の発現を有意に改善したが、肝臓のTG蓄積量に変化はみられなかった。網羅的な遺伝子発現解析では、ペマフィブラートはTGの加水分解と脂肪酸のβ酸化、ならびにTGの再エステル化を誘導するとともに、脂肪分解と脂肪滴形成に関与する遺伝子の発現も誘導した。さらに、STAMマウスへのペマフィブラート投与は、細胞接着分子VCAM-1、骨髄系細胞マーカー、および炎症・線維化関連遺伝子の発現を減少させることにより炎症を低減した 8 。in vitro試験では、ペマフィブラートが高血糖状態により誘導したVCAM-1の発現を減少させることが示されている 8 。
結論として、実験的NASHモデルを用いたペマフィブラートに関する研究結果から、ペマフィブラートは過剰な遊離脂肪酸を減らすことにより脂肪変性と脂肪毒性を低減する一方、肝臓のTG量の減少には効果不十分であることが示された 8,9 。これは、PPARαが肝臓にエネルギー源を供給しているのではなく、主に周辺組織への栄養分供給の調節に関与しているためである。一方、ペマフィブラートは肝臓の免疫細胞相互作用を標的とすることによりNASHを予防すると考えられる。これらの知見全体を通してNASHの管理に多剤アプローチが必要であることが明確に示された。そのため、NASHの新しい治療法の探索は代謝経路の変化、炎症カスケード、もしくは線維化に影響を与えるメカニズムなどに幅広く着目する必要があり、複雑な道のりが想定される。今後、臨床医は、肝線維化が進行した患者のうち、治療のベネフィットが最大になると予想される患者を特定するという課題にも直面することになる。
参考文献
- Younossi ZM, et al. Global epidemiology of nonalcoholic fatty liver disease-Meta-analytic assessment of prevalence, incidence, and outcomes. Hepatology 2016;64:73–84.
2. Review Team, LaBrecque DR, Abbas Z, et al; World Gastroenterology Organisation. World Gastroenterology Organisation global guidelines: Nonalcoholic fatty liver disease and nonalcoholic steatohepatitis. J Clin Gastroenterol 2014;48:467–73.
3. Younossi ZM, et al. Economic and clinical burden of non alcoholic steatohepatitis in patients with type 2 diabetes in the U.S. Diabetes Care 2020;43:283-9.
4. White DL, et al. Incidence of hepatocellular carcinoma in all 50 United States, from 2000 through 2012. Gastroenterology 2017;152:812‐20.
5. Miyao M, et al. Pivotal role of liver sinusoidal endothelial cells in NAFLD/NASH progression. Lab. Invest 2015;95:30–44.
6. Yamashita S, Masuda D, Matsuzawa Y. Pemafibrate, a new selective PPARα Modulator: drug concept and its clinical applications for dyslipidemia and metabolic diseases. Curr Atheroscler Rep 2020;22(1):5.
7. Yamashita S, et al. Efficacy and safety of pemafibrate, a novel Selective Peroxisome Proliferator-Activated Receptor α Modulator (SPPARMα): pooled analysis of phase 2 and 3 studies in dyslipidemic patients with or without statin combination. Int J Mol Sci 2019; doi: 10.3390/ijms20225537.
8. Honda, Y. et al. Pemafibrate, a novel selective peroxisome proliferator-activated receptor alpha modulator, improves the pathogenesis in a rodent model of nonalcoholic steatohepatitis. Sci Rep 2017;7:42477.
9. Sasaki Y, et al. Pemafibrate, a selective PPARα modulator, prevents non-alcoholic steatohepatitis development without reducing the hepatic triglyceride content. Sci Rep 2020;10:7818.
10. Alkhouri N, et al. Looking into the crystal ball: predicting the future challenges of fibrotic NASH treatment. Hepatol Commun 2019;3:605-13.
11. Colca J. NASH (nonalcoholic steatohepatitis), diabetes, and macrovascular disease: multiple chronic conditions and a potential treatment at the metabolic root. Expert Opin Investig Drugs 2020;29:191-6.
