R3i社説
2023年4月
2023年における残存リスク:どこに向かうべきか?
Prof. Jean Charles Fruchart, Prof. Michel Hermans, Prof. Pierre Amarenco
編集デスクから
心血管疾患研究において、残存心血管リスクは概念(1)から確立された標的へと進化している。最近の研究、特に脂質に焦点を当てた研究では、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)低下治療によって、脳卒中を含む主要心血管イベントの残存リスクが低下することが示されている(2,3)。その他の脂質パラメータ、とりわけトリグリセリドrichリポ蛋白(臨床現場では血漿中トリグリセリドをサロゲートマーカーとして使用)(4)およびリポ蛋白(a)(5)の治療標的としての可能性にも大きな関心が寄せられている。トリグリセリドrichリポ蛋白については、高用量イコサペント酸エチルを用いた1試験(REDUCE-IT)で有望な成績が得られており(6)、同試験の結果を受け、高リスク患者のTG高値の管理に関するガイドラインの推奨事項が変更された。しかし、REDUCE-ITで認められた心血管イベントの相対リスク低下が、イコサペント酸エチルによるTG低下の程度と相関しなかったことは、妥当な結果である(6)。さらに、トリグリセリドrichリポ蛋白値の調節は複雑であることから(4)、REDUCE-IT以外の試験で残存心血管リスクの有意な低下が認められなかったことは、おそらく驚くべきことではない(7,8)。メンデル無作為化研究の知見(9)を主な根拠としてTG高値の是正を目指す新規の治療アプローチが開発されることにより、TG低下と残存心血管リスクとの関連を詳細に検討する機会が得られる。さらに、リポ蛋白(a)高値の是正によって残存心血管リスクを低下させるアプローチについては、現在進行中のLp(a) HORIZON試験の結果が待たれるところである(10)。
残存心血管リスクには多くの因子が関与することから、その他の標的も評価する必要がある。CANTOS(Canakinumab Anti-inflammatory Thrombosis Outcomes Study)は、インターロイキン(IL)-1βを標的とする完全ヒト化モノクローナル抗体であるカナキヌマブによる抗炎症治療により、エビデンスに基づく最善の治療(LDL-C値の十分なコントロールを含む)を受けている患者の残存心血管リスクが低下するというproof of concept(概念実証)を示したランドマーク試験であった(11)。TG値の是正を評価した試験と同様、抗炎症治療を評価した試験でも、すべての試験で有望な結果が得られたわけではなかった。例えば、心筋梗塞または多枝冠動脈疾患の既往を有する2型糖尿病またはメタボリックシンドローム患者3,000例を対象としてメトトレキサートの効果を検討したCIRT(Cardiovascular Inflammation Trial)(12)では、心血管イベントおよび全死因死亡率に対する有意な影響は認められなかったが、その主な原因は、メトトレキサートが高感度C反応性蛋白、IL-6およびIL-1βに効果を示さないことにあった。これらの試験における効果の有無は、治療による炎症リスク低減の機序や、ベースライン時の患者選択基準によって説明がつく可能性がある(13)。
比較的新しい血糖降下療法、とりわけグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬およびNa+/グルコース共役輸送担体2(SGLT2)阻害薬の誕生は、糖尿病治療の新たな変化の到来を告げるものであり、大規模前向き試験では、これらの薬剤による心血管ベネフィットのエビデンスが得られている。そうした試験のうち、2015年に最初に発表されたのがEMPA-REG OUTCOME(Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes trial)(14)であり、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンにより、主要評価項目(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合)の相対リスクの14%低下および心血管死の相対リスクの38%低下が認められた。重要な点として、心血管イベントおよび死亡リスクのこのような低下は、エビデンスに基づく最善の治療を受けている患者(アンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬、スタチンおよびアスピリンの使用率はそれぞれ81%、77%および82%)で認められた(14)。
その他の研究は、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬がいずれも心血管ベネフィットを有することを裏付けるとともに、これらの血糖降下薬の作用の差異を示すのに役立った(15-19)。SGLT2阻害薬による主なベネフィットは、心不全による入院の減少および腎機能障害の進行遅延であった。SGLT2阻害薬を用いた最近の試験(EMPA-KIDNEY)では、SGLT2阻害薬のベネフィットとして、糖尿病の有無にかかわらず慢性腎臓病を有する幅広い患者で、腎臓病の進行または心血管死のリスク低減が認められた(20)。これに対し、GLP-1受容体作動薬はアテローム性動脈硬化アウトカムを改善するが、心不全評価項目に有意な効果を示さない。GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬のこれらの作用の根底にある機序は、現在検討されている。さらに、糖尿病性腎臓病の治療を効能・効果とする新規の非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬であるフィネレノンにも関心が集まっている。2型糖尿病を合併する慢性腎臓病患者を対象としたFIGARO-DKD試験では、フィネレノンは心血管アウトカム(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中または心不全による入院)を13%低下させることが示された(p=0.03)。このベネフィットは主として、心不全による入院が減少したことによるものであった(21)。
2023年には、残存心血管リスクの低下に有効な治療薬の探索が活発化することが見込まれる。重要な点として、患者選択基準を拡大して実臨床に近い患者集団を試験対象とすることを目指して、臨床試験デザインも進歩しつつある。Residual Risk Reduction Initiativeは、残存心血管リスクの低減を目的とする探索において、活気に満ちた1年となることを期待している。
参考文献
- Fruchart JC, Sacks F, Hermans MP, et al. The Residual Risk Reduction Initiative: a call to action to reduce residual vascular risk in patients with dyslipidemia. Am J Cardiol 2008;102(10 Suppl):1K-34K.
2. Sabatine MS, Giugliano RP, Keech AC, et al. Evolocumab and clinical outcomes in patients with cardiovascular disease. N Engl J Med 2017; 376:1713–22.
3. Schwartz GG, Steg PG, Szarek M, et al. Alirocumab and cardiovascular outcomes after acute coronary syndrome. N Engl J Med 2018;379:2097–107.
4. Ginsberg HN, Packard CJ, Chapman MJ, et al. Triglyceride-rich lipoproteins and their remnants: metabolic insights, role in atherosclerotic cardiovascular disease, and emerging therapeutic strategies-a consensus statement from the European Atherosclerosis Society. Eur Heart J 2021;42:4791-806.
5. Kronenberg F, Mora S, Stroes ESG, et al. Lipoprotein(a) in atherosclerotic cardiovascular disease and aortic stenosis: a European Atherosclerosis Society consensus statement. Eur Heart J 2022;43:3925-46.
6. Bhatt DL, Steg PG, Miller M, et al. Cardiovascular risk reduction with icosapent ethyl for hypertriglyceridemia. N Engl J Med 2019;380:11-22.
