APOC3とLDL-Cを標的とした併用療法の可能性

2025年4月

40万人以上のUKバイオバンク参加者を対象とした本遺伝学的関連研究は、APOC3とLDL-Cを標的として併用治療を行った場合、脂質プロファイルの改善および冠動脈疾患リスクの低下という点で、単剤療法よりも優れた効果をもたらす可能性を初めて示したものである。これらの知見は臨床試験においてさらに検討される必要がある

文献;Wang W, Li R, Song Z, Huang N, et al. Joint associations of APOC3 and LDL-C–lowering variants with the risk of coronary heart disease. JAMA Cardiol. doi:10.1001/jamacardio.2025.0195

 

研究要約

目的

・遺伝的に予測されるアポリポ蛋白C3(APOC3)の低下が心血管リスクの低減と関連するかを調べる

・APOC3低下およびLDLコレステロール(LDL-C)低下に関連する遺伝子変異の両方を併せ持つ場合、冠動脈疾患(CHD)のリスク低下と関連するかを検討する

研究デザイン

集団ベースの遺伝学的関連研究であり、2×2要因メンデルランダム化法を用いた。

研究対象

UKバイオバンク研究に登録されたヨーロッパ系集団の被験者401,548名(平均年齢56.9歳、女性54%)。対象集団のLDL-C平均値(標準偏差)は138.1 (33.7) mg/dL、トリグリセリド値の中央値(四分位範囲)は132.5 (93.6-191.6) mg/dLであった。

主要評価項目

血漿脂質・リポ蛋白レベルおよび冠動脈疾患(CHD)リスク

方法

トリグリセリド低下をもたらすAPOC3遺伝子変異、およびLDL-C低下をもたらす3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A還元酵素(HMGCR)およびプロ蛋白質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害剤を模倣する遺伝子スコアを作成した。遺伝的に予測されるAPOC3、PCSK9、HMGCR低下と脂質および臨床転帰との因果関係をメンデルランダム化解析で評価した。次に、APOC3遺伝子スコアとHMGCR/PCSK9遺伝子スコアをそれぞれ中央値で二分し、それらの併存が血漿脂質、リポ蛋白およびCHDリスクと関連するかをメンデルランダム化解析で評価した。

結果

中央値12.5年の追跡期間で25,199例のCHD発症が確認された。遺伝的に予測されたAPOC3の低下は、トリグリセリド、LDL-C、アポリポ蛋白B(apoB)、総コレステロール、レムナントコレステロールの低下、およびHDL-Cの上昇と関連した。遺伝的に予測されたPCSK9とHMGCRの低下も、トリグリセリドおよびHDL-Cを除き、APOC3と同様の結果を示した。

遺伝的にAPOC3およびLDL-C(HMGCRとPCSK9)を低下させることは、apoBを10 mg/dL低下させる毎のCHDリスク低下効果において同等であった(表1)。APOC3低下とPCSK9低下、またはAPOC3低下とHMGCR低下の併存は、それぞれ単独よりもCHDリスクを低下させた。

Table 1.遺伝的に予測されたAPOC3、PCSK9、HMGCRの低下と脂質値およびCHDリスクの関連性

TG変化量 (95% CI,  mg/dL)

LDL-C変化量(95% CI, mg/dL)

オッズ比 (95% CI)

APOC3低下*

-142.99 

(-146.74, -139.24)

-11.33 

(-12.76, -9.91)

0.70 (0.59-0.83)

PCSK9低下*

1.54 

(-0.37, 3.45)

-14.52 

(-15.24, -13.80)

0.71 (0.65-0.77)

HMGCR低下*

-3.27 

(-6.48, -0.06)

-16.01 

(-17.22, -14.80)

0.85 (0.73, 0.98)

Joint associations

APOC3 

PCSK9

APOC3/PCSK9 

0.96 (0.92-0.99)

0.93 (0.90-0.97)

0.90 (0.86-0.93)

HMGCR

HMGCR/APOC3

0.97 (0.94-1.01)

0.93 (0.90-0.97)

*apoBが10 mg/dL低下した場合の数値、CI=信頼区間

結論

遺伝的に予測されたAPOC3の低下は、apoB 1単位あたりのCHDリスク低下効果において、PCSK9の低下と同程度であった。APOC3とLDL-C低下変異の併存は、CHDリスクをさらに相加的に低下させることと関連した。これらの併用療法の治療的可能性を調べるため、特に既存の脂質低下療法で治療目標に達しない高リスク患者を対象に、今後の研究が求められる。

 

コメント

 

脂質関連心血管リスクの管理は、主にスタチン治療を用いたLDLコレステロール(LDL-C)の低下に焦点を当てており、近年ではPCSK9阻害薬も利用されている。これらの有効な治療法によりLDL-Cの目標値を達成したとしても、特にトリグリセリド値が高い患者においては、高い残存リスクが残ることが知られている(文献1-4)。トリグリセリド値は、トリグリセリドに富むリポ蛋白およびそのレムナントを反映する代理指標として認識されており、これらは心血管リスク因子として重要であることから(文献5)、この残存リスクを標的とした新たな治療が求められている。

血漿トリグリセリド代謝の重要な調節因子であるAPOC3は、治療介入の有望な標的として注目されている。これは遺伝疫学研究により、APOC3遺伝子の機能喪失型変異がトリグリセリド値の低下および心血管疾患リスクの低下と関連していることが示されたためである(文献6,7)。これまでの臨床試験から、新規のAPOC3阻害薬による治療がトリグリセリド値を効果的に低下させることは確認されている(文献8-10)。しかし、このトリグリセリド低下の効果が、実際の心血管リスクの低減につながるかどうかについては、いまだ明らかになっていない。さらに、APOC3阻害薬をLDL-C低下療法に追加することが、心血管リスク低減をさらに改善できるかどうかに関しても、これまでのところエビデンスは得られていない。

今回の遺伝学的関連研究から得られた結果は、この仮説を支持する初めてのエビデンスである。本研究において、APOC3低下とLDL-C低下の両方の遺伝的変異を併せ持つ場合、LDL-C低下変異のみを有する場合と比べて、脂質プロファイルの改善および冠動脈疾患(CHD)リスクの低下において、より大きな利益が得られることが明らかになった。この研究結果は、大規模なコホートを対象としており、交絡因子の影響を最小限に抑えるメンデルランダム化解析を用いたこと、さらにAPOC3およびLDL-C低下療法の効果を模擬するために検証済みの遺伝的スコアを利用したことにより、強固な裏付けが与えられている。ただし、著者らは、これらの遺伝的スコアで模倣された脂質低下療法の効果は、生涯にわたる長期曝露を反映しており、短期の臨床試験で期待される結果とは異なる可能性があることを認識している。このような限界があるにもかかわらず、今回の結果は、残存心血管リスクをさらに低下させるため、APOC3とLDL-Cの両方を標的とする併用療法の可能性をさらに検討する必要性を示している。

参考文献

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